3月4日 金曜日

スポーツ選手が難治性の病気を発症されてその治療にかかる費用を募ることを発表されているようです。すでに多くの医師の方達を中心にその事に対するコメントが出ているようです。最善の治療を受けるためには高額の費用がかかるためというのがその理由に添えられています。テレビのCMなどでも保険会社ががん治療のための任意保険に加入しないと・・というのがよく流れています。誤解される方もいらっしゃると想像するのですが、まずは日本の保険医療についての正しい知識が役に立ちます。そしてそれが無用な心配不安から身を解き放ってくれるだろうと思います。最高の治療とはなんですか?という問いに、専門医のほとんどは保険適応のあるいわゆる標準治療であると答えます。私もそう思います。保険の効かない高額な治療が最高の治療で、それにはお金持ちの方しか近づくことができない・・・という誤解って結構広がっているのかも知れません。現在の私たちの国で厚生労働省の認める保険適応のある治療というのは、厳しく査定された臨床試験をクリアしたものばかりです。認可された薬剤の背景には、多くの被験者さんたちの協力や、製薬会社らが投入してきた資金と期間と努力があります。保険適応のない民間医療機関が行う治療というのは、その臨床試験の入り口にすら立てないものも多くあります。第一相臨床試験(有効性の確認の前に行う副作用チェックのフェーズです)すら通過できていない(しようと努力もされていない)治療薬に高額な費用を費やすのは私たちの目から見ると非常に大きなリスクを伴う冒険としか言いようがありません。もちろん何か少しの可能性でもあるのならば・・・というお気持ちは理解できますし、最大限に尊重されるべきであると思うのですが、そのために残されている標準治療の選択肢が蔑ろになってしまうのは良くないですね。日本の保険適応治療である標準治療は現在世界でも標準とされているほぼ最高の治療です。それに我が国は医療保険がありますので、例えば米国であればカバーされている保険の内容によっては何千万もかかるものが、数十万円までで治療を受けることができるわけです。加えて個人の収入に応じて、月額医療費の上限限度額を設定した高額療養費制度もあります。入院した場合には食事や部屋代が別途必要ですが、特別個室などを希望される必要がなければ、果たして民間保険を追加する必要があるのかどうかすら疑問になってきます。給付金を受けるような病気になるまでに一体いくら掛け捨てしている部分の金額があるのか一度計算してみるとその意味がよくご理解いただけるかも知れません。その掛け捨て分を貯蓄しておくのと実際にどのくらい異なるのか・・。今回の投稿は、特定の方の行動を非難する意図はありません。病気の方の回復を願うお気持ちや、それを支援している周りの方達の努力には敬意を抱いておりますし、最大限尊重して差し上げたいと思います。本当に速やかな病状からの回復をお祈り申し上げます。その上で、こういう物の見方もあるのかも知れませんよという一つのご提案をしたつもりです。身近なところでご病気と闘っておられる方がもしも自らのご意見と異なるような内容となってしまいましたら本当に申し訳ございません・・・