5月25日 日曜日 晴れ

当番日にて診療していました。このところ新聞などのメディアで度々目にされるのではないでしょうか、「高血圧の新基準」。とある週刊誌では人間ドック学会理事長の告白スクープ記事なるものが目を引きます。この話、最近、人間ドック学会と高血圧学会の双方で高血圧に関する基準やガイドラインの見直しがあった事が契機となっています。

http://www.ningen-dock.jp/other/release

先ほどの記事で言えば、人間ドック学会と健保連が行った「新たな健診の基本検査の基準範囲についての150万人メガスタディー」と銘打って発表したものに関連するもののようです。この記事によると、従来収縮期血圧(上の血圧)の正常値であった130未満というものが、実は「健常者」での統計をとると147まで健康であったというもので、果ては、学会理事長がついに告白 ”高血圧なんて本当は気にしなくていい” なんていうタイトルが付いたものだったようで(小生は読んでおりませんが)す。さすがにそのインパクトは大きなものであったらしく、色々な誤解も招く結果となったようで、同学会も早速HP上で週刊誌編集元に抗議の声明を発表しています。

さらにそもそもの元ネタとなった、4月4日のプレスリリースに関しては、あくまでも単年度結果であり、今後の追跡調査が必要であるとの追加発表も行っているようです。

すなわち、これらの発表の元データは、健康だと思われる健診受診者を大勢集めて、「今現在の」血圧を解析すると、147までに分布していたと言う事ですので、それを放置しておくと10年後にどうなるのかという事については、何ら情報を示唆してくれるわけではありません。将来の脳卒中や心筋梗塞を予防しようとして治療している患者さんには、そのまま当てはめる事ができないという事がご理解頂けるのではないかと思います。われわれ高血圧患者さんを日々診療している身からすると、ややお騒がせな感じのある唐突な発表であった事は否めないのですが、これを機会に高血圧とは如何なるものなのか、あるいは日々の健康管理とはどうあるべきなのかを考え直す良い機会かも知れません。ちなみに2014年(つまり今年)改訂された、日本高血圧学会のガイドラインの定める正常血圧の境界は130/85と何ら変更はありません。しかしそもそも血圧とは多くの患者さんが日々戸惑っておられるように、時々刻々と変化するものでありまして、さっき150だったものが5分後に再測定すると120などということも平気で起きるのです。そんなとき、ほとんどの方が、血圧計が壊れているのかなあ?と思われるのも無理無い事でしょう。そもそも白衣高血圧などという言葉もあるくらいですから、病院で緊張しながら測る血圧と、家庭でゆっくりとリラックスした状態でのそれでは、当然のことながら大きく異なってもおかしくないわけです。大まかに「診察室血圧」「家庭血圧」「仕事中の血圧」などと分けて考えるとわかり易いかもしれません。では測定方法についてはどうなのでしょうか?学会(この場合は日本高血圧学会です)の定めるその方法を見てみると、1)静かで適当な室温の環境で 2)原則背もたれ付きの椅子に足を組まず座って1−2分後に測定 3)会話をしない環境 4)測定前には煙草、お酒、カフェインは取らない 5)カフ(腕をしめつける風船ですね)の高さは心臓に という条件となります。また、一度に2回測定し、その平均値をとるということになっています。結果については、朝と晩それぞれ5日以上の平均値と、そのそれぞれの値について評価すること・・・実際に、こんなややこしい事を毎日できる方はあまりおられないと思います。それならどう高血圧とつきあって行けば良いのでしょうか・・・長くなってきましたので続きはまた後ほど。

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そもそも正常(健康)と異常(病気)って誰がどうやって決めるのでしょうか?たくさんの人を集めるとその結果は平均となる数値を中心にして、富士山のようなかたちに分布する(正規分布というそうです)と仮定すると、その裾野の部分が両端に存在するわけですが、この裾野の両端に存在するデータ(±2SD)を異常値として考えるのが通例となります。う〜ん、富士山型に分布しない場合、心の問題や、完全に定量的に考えられない部分はどう割り切れば良いのだろうか・・・なかなかに正常と異常というのは深い問題です。