9月21日 月曜日

幼いころに黒人初の女性ピアニストになることを志したシモンは、それが原因で黒人のコミュニティからも白人のそれからも孤立することになる。南部に生まれた黒人少女は、当時の人種隔離政策に抗い、得られた基金でジュリアード音楽院へすすむのだが、そこでも人種の壁にぶつかる。資金も底をつき、刀折れ矢尽きた彼女はその後、アトランティックシティのバーで資金を稼ぐために歌うこととなるが、皮肉にもそれがその後の彼女の運命を決めることになったのである。その後黒人公民権運動などにも参加した後に2003年乳癌でこの世を去った。

私の映像と音楽と小説のソムリエである奥さんのお勧めで観た『ニーナ・シモン~魂の歌~』ですが、なかなかの良作です。当時彼女の夢見ていた未来とは・・・果たして今のようなものであったのでしょうか?

この数日でたまたま見ることになった二人の女性のストーリー・・・もう一つは昨日も申し上げました『Notorious RBG』ことルース・ベイダー・ギンズバーグの物語です。ちょっと紹介しておきましょう。NYブルックリンで生まれ育った彼女は、当時の社会には憲法に謳われているはずの人類の平等が実現されていないと感じます。しかしその頃行われつつあったデモという手段ではなく、法廷での仕事でその実現を果たそうと決意します。弁護士資格を取得した後に彼女が争った案件は、女性に対する性差別だけではなく、妻に先立たれた夫の保育休暇に対する手当もありました。最高裁まで争うことになった6つの訴訟のうちの5つに勝利を収めたことが当時の彼女の能力を物語っています。1981年まで、最高裁判事はほとんどが白人男性で占められていました。初めてそれを変えようとしたのはジミー・カーター大統領であったようです。その後数年が経過し、クリントン大統領が1993年に107人目となる最高裁判事に彼女を指名することになります。面白いことに当初彼が画策していた人物は、この度の新型コロナで有名になったNY市長のクオモ氏であったそうです。RBGは控えめな性格で、強く自己主張せず、あまりに発言しないので、対照的に明るく外交的な彼女の夫マーティンがプロモーター役をしていたそうです。もちろん彼女がそれまでに訴訟で助けた女性たちも支援に全力を尽くします。当時の公聴会での陳述シーンでは、上院司法委員会委員長を務めていた現在の大統領選レースに出馬しているバイデン氏が質問者として登場しているのもなかなか面白いです。

スマホは持っているのか?の問いかけに、2台持っているけどセルフィー(自撮り)はしないよ・・とお茶目に返すRBG。自らも高名な弁護士であった夫のマーティンですが、彼女に良い仕事をさせるため、すすんで家事をこなします。『彼女の料理はひどいのでキッチンには出入り禁止でした』笑いながら彼はそうインタビューに答えています。多様な価値観を認め合う夫婦像が垣間見える映像です。

反対意見に挑んだり、自分が貶められていると感じたときに彼女は、まずは怒りを鎮めよと言います。当時の判事の1人で、保守派のスカリア氏と大変仲が良かったと言われています。一方はカトリック、彼女はユダヤ系、保守とリベラル、本来は正反対の主張をする彼とは異なる立場であったはずです。インド旅行をした際に彼と一緒に象にライドした際に彼の後ろに座ったことを女性解放運動家になじられたのだといいます。保守派の男性の後塵を拝したのが気に入られなかったのでしょうか。主義主張が異なる立場の人物だからと言って人間付き合いまで拒絶するのではなく、逆に親友になれたりする彼女の懐の広さがわかる逸話です。

ブッシュとゴアの選挙の再集計中止に異議を唱えた彼女は、その後右傾化した最高裁判事の中で、よりリベラルな立場を主張していく覚悟を決めます。2013年に選挙差別を防ぐために設けられていたはずの『投票法』の実質の効力が失われた判決では、明確に反対意見を主張します。当時その問題の重要性に気づいた若者たちが彼女をnotorious RBG というサイトを作り、you cant spell TRUTH without RUTH というスローガンで応援することになりました。

notorious RBG (反対する厄介なRBG)

彼女が生涯一貫として守ろうとしたものは、少数派の人々や女性という当時生きづらさを抱えていた人たちへの思いやりだったのではないでしょうか。1999年に大腸がんに罹患し、その10年後に今度は膵臓癌を患います。80歳をすぎて筋トレをする女史の姿で映画はエンディングになっていきます。世界は貴重な人材をまた一人失いました・・・。

 

 

 

それでは最後に・・・ニーナ・シモンの代表曲の一つ『I wish I knew how it would feel to be free』の歌詞の一節を

 

I wish I knew how it would feel to be free             I wish I could break all the chains holding me

I wish I could say all the things that I should say           Say’em loud say’em clear for the whole round world to hear

もしも私が知ることができたなら、自由であるとはどういうことなのかを

もしも壊すことができたなら、私を縛り付けるすべての鎖を

もしも言えたなら、私の言うべきことのすべてを、大きな声で、はっきりと 周りの世界の人々に届くように・・・・